突然ですが、「Up or Out」(アップ オワ アウト)という言葉をご存知でしょうか。コンサルティングファームでは、この「Up or Out」が企業運営に取り入れられてきました。

「Up or Out」を簡単に説明すると、(クラスが)上がる(Up)か辞める(Out)という事で、コンサルティングファームでは、昇格するか退職するかという意味になります。

欧米系を起源とする外資系のコンサルティングファームは、日本企業に比べてOutに躊躇が少ないため、日本でのコンサルティングビジネスの黎明期には実際に運用されていたと思います。

では、コンサルティングビジネスも定着し、コンサルティングファーム自体の規模が大きくなった現在では、この「Up or Out」はどのように運用されているのでしょうか。実際に総合系のコンサルティングファームに所属していた私の視点でどのように運用されていたのかを書きます。

 

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Up or Outは昔の話!?

 

たまに、「コンサルは、年収が高いけどUp or Outで大変だね。」とか声をかけられたり、また、コンサルティング業界の未経験者の方がUp or Outを初めて聞くと驚かれますが、私の実感では、それほどOutが行われている感覚はありません。
(ご安心ください)

2000年以前のまだコンサルティングファーム自体の規模が小さく、今日のように数千の規模になっていない時代で、かつ、コンサルティングファームおよび従業員ともに労働基準法を現在ほど意識していない時代であれば、俗にいう「首切り」、「クビ(解雇)」が数多くあったのかもしれません。

しかし、現在はファームの規模が大きくなり、労働基準監督署からもチェックも厳しくなります。
また、ネットを通じて個人レベルで情報を発信できる現代においては、安易な首切りは、逆にファーム自体の首を絞めることになりかねません。

また、ファームが規模を拡大しているため、様々な種類のプロジェクトの機会を提供することが可能になっています。
コンサルタントのプロジェクトへのアサインについては、極力、本人の志向や能力が加味されたうえで行われるため、全く能力を発揮できないという事は少ないです。このため、私の知る範囲では、能力が足りずにOutと言う事態は、多く発生していません。

 

Outは少ないですが・・・

ただし、降格(クラスダウン)の機会は一般の事業会社比べれば遥かに多いです。
一般事業会社では、降格の制度はあるものの、実際は運用されていない場合や、懲戒に該当するような特殊な事例にのみ降格を行うような場合も多いですが、どこのコンサルティングファームでも、降格は普通に運用されています。

降格は、ファームからの強力なメッセージになりますので、降格を機に転職活動を開始する人も多くいます。
しかし、降格するから必ずダメかというとそうではなく、降格した人間が、降格を機に発奮し数年後にまたプロモーション(昇格)する例(マネージャ→シニアコンサルタント→マネージャ等)を、私は複数知っています。

そういう意味では、コンサルティングファームの評価自体は、公平であり、純粋に本人のプロジェクトや部門に対する貢献度が高ければ高評価、高評価が続けば昇格(クラスアップ)をするし、貢献が低ければ、低評価、低評価が続けば降格(クラスダウン)というシンプルな図式で運用されています。

 

 

全員が同等に活躍するファームは存在しない

そもそも、コンサルティングファームがいくら優秀な人材を揃えているとしても、全員が全員活躍できるわけではありません。
私見ですが、パレードの法則(80:20の法則)でも言われるように、「売上の8割は、全従業員のうちの2割で生み出している」というのは、コンサルティング業界でもある程度当てはまっていると思います。
※パレードの法則は、経験則の側面が強く上記の従業員の売上以外にも、成果や故障率等のいろいろな事例があります

コンサルティングファーム側のこのような認識が少なからずあるもと思われます。

 

Up or Downのほうが正確かも

このため従業員であるコンサルタントに短期的な結果のみを求めて直ぐにOutさせるのではなく、中期的(場合によっては長期的)な目線で機会を与えつつ、それでも結果が出ないのであれば、降格させてロールを落とし責任を軽くする運用を多くみてきました。
仕切り直して再出発させているのだと思います。だからこそ、成果が上がれば降格した人間であっても、公平に昇格させます。
降格だからと言って全否定されるわけではありませんし、あまりネガティブに考える必要もないのかもしれません。

このような考え方をする人間は降格しても、退職 (転職)の道を選ばないのでしょうが、一方で納得できない人や新天地に自分の居場所を求める人もいます。

もともと、同業他社に限らず、コンサルティングファームでの経験を評価してくれる事業会社も多いことから、例え実務の未経験者であっても、事業会社への転職も多く見受けられます。
降格した方であっても決して能力が低いわけではなく(稀に低い方もいますが・・・)、仕事とのアンマッチが主な理由である場合が多く、転職も意外とスムーズに進むことが多いようです。

また、給与制度の仕組みとしてDownをすることがあります。ある総合系のコンサルティングファームでは、あるクラス(コンサルタントクラス等)に一定期間(5年等)留まると、自動的に減給する(マイナスの定期昇給)仕組みを設けています。

このように、個人的には、コンサルティングファームにおいては、Up or OutよりもUp or Downのほうがしっくりきます。

 

そうは言ってもOutの方はゼロではない

もちろん冒頭で「私の実感では、それほどOutが行われている感覚はありません」と書いているように、全くOutがないかと言えばそうではなく、実態としてOutがあります。

30歳を超えてもマネージャはもとより、シニアコンサルタントに上がることのできないような方、思考や成長の速度がコンサルタントに適さない方等は、アサインも見つからず会社での待機が続く傾向が強くなります。

否応なく本人に対してメッセージが発せられるようになります。
コンサルティングファームには、早期退職推奨制度等はなく、また、一時の大手の会社で話題になったような首切り部屋も当然ありません。

このようにアサインが見つからない状況で、(時間もあることから)自発的にと転職するケースも多いですが、半期に1度の上司(マネージャ)との面談では、今後のキャリアについて話し合いがある場合もあります。
「これ以上ファームにいても合うアサインは出来にくい、若い今のうちに転職した方が自身のキャリアにとっても有益ではないか」と、決して強要することはないですが、あなたの将来を考えると・・・という事になります。
(これが労働基準法のクビ(解雇)に該当する/しないは、ここで書きたいことではないので触れません)

綺麗ごとの様に聞こえるかもしれませんが、実際、あと10年、20年もあまりアサインもあまりなく、本意でない仕事をするくらいなら、(言葉は悪いですが飼い殺しにされるくらいなら)転職した方が良いのではないかと思います。

コンサルティングファームの人間は基本的には自頭が良い人が多いですし、優秀な方が多いです。その才能はコンサルティングファームのコンサルタントという職業には、たまたま向いていなかったのかもしれませんが、別の職業、活かせる場所で活かした方が良いと思います。

仕事に対する熱意も多い方も多いので、降格や退職勧告のような状態に合った方でも、実際に転職後に会うと、新たなキャリアを築き新天地で活躍し、目を輝かせている人が多くいます。

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