SIerとコンサルティングファーム、SE(システムエンジニア)とコンサルタントの違いについては、目的意識が異なるということを「コンサルタントとSEの違い」に書きました。
しかしながら、特にIT系のコンサルティングファームとSIerでは業務として重なる部分も多く、また、実際、コンサルティングファームへの転職者にはSIerの出身者が多くいます。
ここでは、「目的意識の違い」から少し離れて、SEとコンサルタントの得意分野の違い、役割の違いを考えながら、SIerに所属するSEの方がコンサルタントに転職する場合について攻略法を考えたいと思います。
コンサルティングファームとSIerの得意分野の違い
SEとコンサルタントは目指す最終的なゴールが異なる旨(システム構築と課題解決)は記載していますが、併せて得意分野が異なるとこも書きました。
ここでは、システム構築をブレイクダウンして、それぞれのフェーズにおいて、コンサルティングファームとSIerの得意分野を考えてみたいと思います。
下記はBABOK(ビジネスアナリシス知識体系ガイド )で定義されている各プロセス(フェーズ)です。
システムを構築するためのフェーズを分解するとIT戦略立案から始まり、最終的には稼働して運用という流れで整理されています。
IT戦略立案
まずは、IT戦略立案ですが、そもそも「なぜそのシステムが必要なのか」から始まります。経営計画等を実現するために必要なシステムは何か、中長期のシステムのグラウンドデザインを明確にします。中長期的な観点での費用対効果や実現の優先度等、全社レベルでのITの最適化といった観点で検討します。
視点は常にその会社のシステム全体を俯瞰して、全社レベルでの中長期のロードマップを作成します。
システム企画
システム企画では、IT戦略立案で、構築対象となったシステムについて、システム像の具体的なToBe像を明確にしていきます。ここで明確にしたToBe像を要件レベルの落とし込みRFP(提案依頼書:Request For Proposal)を作成します。また、必要に応じてRFI(情報提供依頼書:Request For Information)をSIer、コンサルティングファーム等に出します。
RFPに基づき提案を受けた中から適切なベンダ(SIer、コンサルティングファーム等)を選定し契約を行います。
ここまでのIT戦略立案とシステム企画については、BABOKではユーザ側が行う業務として定義されています。
要件定義以降
要件定義では、システム企画で選定・契約をしたベンダと共にシステム構築の実作業を開始します。必要な個々の機能の定義等を明確にします。ERP等のパッケージソフトを導入する場合は、標準機能での実現と追加開発(アドオン開発)を行う機能の切り分けを行います。
ベンダ側では更に要件定義で明確になった機能について、基本設計・詳細設計、開発、単体テストおよび結合テスト、総合テスト等の各種のテストを実施し品質を担保します。
要件定義、開発についてはSIer側が主体となりつつ、ユーザ側と役割分担をしながら進めることになります。
IT系コンサルティングファームの得意分野
IT系コンサルティングファーム(総合系もですが、以下はIT系コンサルティングファームで記載します)では、このBabokでユーザ企業側となっている、IT戦略立案とシステム企画について、ITのプロフェッショナルとして、積極的に関与していく姿勢があります。
特にRFPの作成支援等は、後続の提案を有利に進められる可能性もあり、ある程度コンサルタントのチャージレートをディスカウントしても、RFPやRFI(情報提供依頼:Request For Information)作成の支援プロジェクトを提案するケースも複数ありました。
もともと要件定義以降は、特に開発の部分はSIerの強みがある部分です。SIerは様々なシステムを構築していますし、所属するSEの方は、開発言語・環境の知識も豊富です。
これに対して、コンサルティングファームは、IT戦略立案やシステム企画に注力しており、得意分野になります。これらの領域については、プロジェクトも多くあり、知見の蓄積が進んでいます。
SEの方が評価される理由
システム全体の構築を鑑みると、このように一連の流れであり、シームレスにつながっています。
このため、要件定義以降を強みにしているSEの方はIT系のコンサルティングファーム業務についても、これまでの経験を活かして違和感なく取り組むことができると思います。
実際コンサルティングファームへの転職者は、同業他社以外の(未経験者の)に限定すれば、SIerのSEの方も多く、採用するコンサルティングファーム側も、その経験を評価していることが伺えます。
プロジェクトによっては、コンサルティングファームにおいても要件定義以降の開発、場合によっては稼働後のサポートや保守※を行っています。
※コンサルタント自身が詳細設計やコーディングを行うことは、ほぼありません。開発管理やPMO、品質管理、改善提案等が中心になります
要件定義以降のプロジェクトも多いため、コンサルティング業界が未経験者だからと言っても、実際に行う業務はあまり違いがない、という状況も発生します。
このような状況もあるため、SEの方はアサインされるプロジェクト次第では、未経験という表現はそもそも不適格なのだと思います。
このような事情があり、コンサルティングファームでもSIer出身のSEの転職者の数が多く、また、多数活躍されています。
尚、ここまでSIerに所属するSEを中心に書いてきましたが、自社向けに活躍するSE(社内SE)の方も多数いらっしゃると思います。社内SEの方は、SIerに所属する方以上に自社のIT戦略立案やシステム企画の業務に携わる機会が多いと思います。
BABOKにおいても、IT戦略立案やシステム企画やユーザ側(クライアント側)が担当する切り分けになっているように、社内SEの方の業務は、これらも含んでおり、IT系コンサルティングファームのサービスと重なっています。
このため、社内SEの出身の多くの方がコンサルティングファームで活躍されています。
SEの方のアピールポイント
上記のようにコンサルティングファームとしては、IT戦略立案やシステム企画の部分に力を入れています。このため、SIerでの経験、または社内SEでこれらの経験があれば、積極的に面談や職務経歴書でアピールすることで高評価に繋がりやすいと思います。
また、「中途採用で評価される3つの経験」にも書いていますが、プロジェクトのマネジメント経験は評価されます。SEはプロジェクト単位で仕事が多いため、プロジェクトマネジメント経験がある場合は、またはチームリードの経験がある場合は、アピールすると良いです。
もし、IT戦略立案やシステム企画の経験がなく、また、プロジェクトマネジャーやチームリーダーの経験がない場合は、要件定義や設計の経験を推してみると良いと思います。前述のようにコンサルティングファームにおいても要件定義のプロジェクトは多いためです。
最後に
このようにSEの方はIT系のコンサルティングファームとの業務領域が比較的近いために、転職後も比較的短い期間でキャッチアップして活躍される方が多いような気がします。
個人的には、上流、下流と言う表現があまり好きではありませんが、より上流の工程を求めてコンサルティングファームへ転職される方も多くいらっしゃいます。実際のプロジェクトも先ほどのBabookの図のように、コンサルティングファームのほうがより上流の工程のプロジェクトが多いと思います。ただし、必ず上流のプロジェクトにアサインされるわけではありません。実際にはコンサルティングファームの業務領域は拡大しており、運用保守までサポートしているコンサルティングファームもあります。このため、上流工程にこだわりたい方は、転職エージェントのキャリアコンサルタントや採用面接時の面接官にファームの方向性や現在稼働中のプロジェクトの状況を確認してみると良いと思います。
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